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黒猫のお手紙大作戦(下)

ライオンのキラとお散歩に行きたい黒猫のリーナ。

想いを伝えるのが下手っぴな彼女がなんとか気持ちを伝えるために

リーナのお友達、白猫のユリちゃんが考えてくれた「お手紙大作戦」

キラに誤解されたり、バレそうになりながらなんとか練習時間を確保するため

明け方までキラを説き伏せたリーナの頑張りは、果たして実るのでしょうか?

そしてお手紙を渡し、念願のキラとのお散歩は実現するのでしょうか?

さぁ。そろそろ昨日の続きを見てみましょう…♪

~苦笑いとため息と怒り~

翌朝、そんなやりとりを聞いて盛大なため息をついたのは他でもありません。

リーナから事情を聞いたショウとユリ。そして、キラから事情を聞いたレンでした。

~~~~~~~

ユリは思います。

”自分の事となると、ここまでリーナさんが鈍感だとは思わなかった…(汗)”

ショウは思います。

”こいつ…自分の事となると、ほんとポンコツだな…(ため息)”

そんなふたりの気持ちなどつゆ知らず、リーナはニコニコしながらいいます。

リーナ:「ほんとバレないようにするために大変だったのよ!」

リーナ:「中々キラが諦めてくれなくて、すっごく説得がんばったんだから!」

リーナ:「なんとか誤魔化せてほんと良かったわ♪」

リーナは、まるで ”上手く誤魔化せたでしょ~♪ほめて~♪” とでも言わんばかりに誇らしげです。

そんなリーナを苦笑いと微かなため息がほんのり暖かくお出迎えするのでした。

~~~~~~~

レンは思います。

”なにやってんだ…こいつ…”

”素直に時間作ったって言えば良かっただろ…”

”ってか…猛獣探しって…明らかに何か隠してるだろ…(汗)”

”そこを素直に信じるなら、素直に言えよな~(ため息)”

”それよりなにより…さっきからリーナを説き伏せたくだりを満足そうに語ってるが…”

”それってオレが昨日キラにやった事と同じじゃねぇーか!!”

”キラはこれっぽっちもオレの意図を汲み取ってくれなかったのによ~(泣)”

”あー。なんか段々腹が立ってきたな…うん。不満だ!不満すぎる!!”

レンは、朝からずっと絶え間なく聞かされ続けるキラとリーナの昨夜の出来事に

最初こそ苦笑いで聞いていたものの、段々とため息の数が増え、いまでは不満顔です。

そんなレンの変化に気づいていないキラはひたすら話し続けます。

キラ:「ねぇ。レン!聞いてる?」

キラ:「オレがどれだけ言っても、リーナったら”ふたりだけ”って全然折れてくれないの!!」

キラ:「ヒドイだろ~(泣)」

キラ:「リーナったら、オレの気持ち全然わかってないんだっ!!(泣)」

キラは手を目元に当て、涙を拭う素振りを見せながら ”慰めてくれ~” っと言わんばかりにレンに力説しています。

レン:「あー。ほんとだな。ヒドイ。ヒドイ。」

キラ:「だろ~(泣)」

レン:「お・ま・え・が・なっ!!」

キラ:「え!?オレ!?!?な、なんでだよ~」

レン:「知るか!自分で考えろっ!!」

レンは、フンッ!!っと鼻を鳴らして見回りに行ってしまいました。

そんなレンを慌てて追いかけるキラ。

森の動物たちは何事かと振り向きますが、あっという間に過ぎ去る影に

「レン~待ってよ~」という声だけが森の中を木霊しているのでした。

~~~~~~~

ショウ:「さて、そろそろ始めるぞ。」

リーナ:「はぁーい。ショウ先生よろしくね♪」

ユリ:「よろしくお願いしまーす。」

ショウ:「………………」

ショウ:「おい。ルナ。次、先生って言ったら教えねぇーぞ。」

リーナ:「え~たまには新鮮でいいじゃない♪」

ショウ:「さ、今日の授業は終わりでーす。」

リーナ:「わー!ごめんなさい。悪かったわ。もう言わない!言わないから~」

ショウ:「ふんっ」

そんなふたりを横目でみていたユリは、

何故だかふたりには自分にはわからない絆のようなものがある気がして少し羨ましくなりました。

ユリ:「はぁ~」

リーナ:「ユリちゃん?どうしたの?」

ユリ:「えっ!?」

リーナ:「いま、ため息ついてたでしょ?何か悩み事?」

ユリ:「あっ…いえ。えっと。。。」

ユリ:「猫の手ってペン持ちにくいなって思って…」

ユリはとっさに誤魔化してしまいました。

リーナ:「たしかにそうなのよね~」

リーナ:「力を入れないと線すら引けないし、力を入れすぎるとクルって飛んでっちゃうし…」

リーナ:「ペンはツルツルで爪を引っかける場所もないものね…」

リーナは昨日の身も竦むような体験を思い出しながら、しみじみと語ります。

そんなユリとリーナの体験を聞いていたショウは、ふたりの身体を注意深く観察しながらなにやら考え込んでるようすです。

ユリ:「ん?ショウさん。どうしたんですか?」

ショウ:「……………」

ユリ:「おーい。ショウさーん?」

ショウ:「いま考えてる。少し静かにしてろ」

ユリは、ショウの言い方がツンツンしているように感じ ”キィー!!” っと顔を真っ赤にして怒ります。

そんなユリをリーナは苦笑い混じりになだめていると、ショウがふたりを見て言いました。

ショウ:「おい。子ザルとルナ。方針を変えるぞ」

ユリ:「こ、子ザル!?子ザルって誰のことですかっ!!」

ショウ:「なんだ?さっき顔を真っ赤にしてキーって言ってただろ?」

ショウはニヤリと、ちょっとワルい顔で笑います。

ユリ:「な、な、な、なぁ~!!リーナさん!!ショウさんが!!ショウさんがぁ~!!」

リーナ:「まったく。ほんと賑やかね~」

リーナ:「ショウ。あんまりユリちゃんをいじめないであげてちょうだい。」

リーナ:「あんまり度が過ぎると怒っちゃうわよ♪」

リーナ:「それからユリちゃん。ユリちゃんもすぐにショウに突っかかるのは良くないわ。」

リーナ:「わたし達がペンを持てるように考えてくれてるのだから、そこはちゃんと考えないとね。」

リーナは、ユリとショウそれぞれの目を見ながら伝えていきます。

ショウ:「うっ…悪かったよ…」

ユリ:「そうですね…ユリもすみませんでした。」

リーナ:「はい♪じゃあ、ふたりとも謝ったのだから仲直りね♪」

リーナ:「さぁ。ショウ。あなたの案を聞かせてちょうだい♪」

ショウとユリは少し気まずそうにしていましたが、リーナの ”お互い謝ったのだからもうおしまい” というスタンスに流されるように会話を始めます。

ショウ:「えっと。手で持つから上手くつかめねぇんだよな。」

ショウ:「なら、答えはカンタンだ。手で持たなきゃいい。」

リーナ&ユリ:「「…えっ??」」

ショウ:「だってそうだろ?」

ショウ:「手で持つから滑って力が入れられねぇーんなら、別に手じゃなくてもいいじゃねぇーか。」

ユリ:「???」

ユリ:「どういうことですか?」

リーナ:「たしかにそうだわ…えぇ。うん。ほんとそう。」

リーナ:「何故いままで気づかなかったのかしら…」

リーナ:「そのとおりね♪さすがショウ♪」

ユリ:「えぇ~。もしかしてわかってないのユリだけですか?」

ユリ:「リーナさん~。ユリにもわかるように教えてください~(汗)」

ユリはオロオロしながら言います。

リーナ:「だからね。しっかり握れればいいわけだから手じゃなくてもいいのよ。」

リーナ:「わたし達にはツルツルのペンを絡めるのに便利なモノがついてるじゃない?」

そう言うと、リーナはニコニコしながらお尻の方に目線を移動させます。

ユリ:「あっ!しっぽ!!」

リーナ:「ユリちゃん正解♪」

ユリ:「やったー♡」

きゃっきゃっ♡と騒ぐユリをニコニコしながら優しい眼差しで見るリーナとやれやれと言った顔で見るショウ。

どこか、小さな妹の成長を見守るお兄ちゃんとお姉ちゃんのような ほのぼの とした光景に

穏やかな日差しがまるで祝福するかのように降り注いで降りました。

~安心と不安~

リーナ:「さて、ショウからいい案も出たことだし早速やってみましょうか♪」

ユリ:「はい♪やってみましょう♪」

早速、リーナとユリはペンにしっぽを器用に巻き付けて落としてしまわないようにギュッと締め付けます。

そして、紙にスッーっと線を引いてみました。

リーナ:「書けた!書けたわ!!ほんとに書けた♪」

ユリ:「はい♪ちゃんと書けてる感じがあります~♪」

ユリとリーナは興奮冷めやらないというようにしっぽをぷるぷると震わせ喜び合います。

リーナ:「ショウ~♡ありがと~♡」

リーナは、あまりのうれしさにピョンッ!っと飛びつきながらショウにお礼をいいました。

ショウ:「おいっ!わかった。わかったから離れろ。」

ショウ:「よかったな…♪」

ショウは少し生意気そうな笑みを浮かべながらリーナの背中をポンポンと叩きます。

リーナ:「えぇ♪これもショウの的確なアドバイスのおかげよ♪」

リーナ:「ホントにありがとう…♪」

リーナ:「ユリちゃん♪この調子でどんどんお手紙を完成させて行きましょう!」

ユリ:「はい!頑張りますよー♪エイエイオー!!」

リーナ:「オーー♪」

意気揚々とお手紙を書き始めるユリとリーナ。ところが…

リーナ:「ダメだわ…全然書けない…」

ユリ:「はい…文字にすらなりません…」

ペンをしっぽでしっかり握ることには成功しましたが、しっぽに巻きつけると

どうしても後ろ向きに書かなくてはいけなくなってしまうため何度やっても文字にならないのです。

リーナ:「で、でも!まだ始めたばかりだもの!」

リーナ:「きっと練習すればちゃんと書けるようになるはずよ。」

リーナ:「もうちょっと頑張ってみましょう!」

ユリ:「そ、そうですね!やりましょう!」

ですが、横から書いてみたり、斜めに書いてみたり、ショウの指示を受けながら書いてみたり、

さまざま試行錯誤するもののどうも上手くいきません。

ユリ:「リーナさん。少し休憩しませんか?」

リーナ:「わたしは大丈夫だからユリちゃんは少し休んでて。」

ユリ:「で、でも…」

リーナ:「もう少しやったら休むから大丈夫よ。」

リーナ:「さぁ。ゆっくり休みなさい♪」

ユリ:「はい。。。」

そういうとリーナは何枚も何枚も書いては調整して、書いては調整してと一心不乱に練習を続けます。

気づけば、暖かく見守っていたお日様も今ではリーナたちの真上まで来て心配そうに見ています。

真っ白なふわふわの雲も先程からリーナ達の様子が気になり入れ替わり立ち替わり様子を見に来ているようです。

セレ猫から貰った練習用のノートもあっという間に真っ黒になり隅のほうで山積みになっています。

それでも、滅気ずにリーナはひたすら練習を続けます。

お手紙を渡したからといってお散歩に行けるかなんてわかりません。

もしかしたら ”時間がないから行けない” と言われてしまうかもしれません。

それでも…キラに伝えたい想いをちゃんと形にするために…

ちゃんと気持ちを伝えるために…必死に必死に練習を続けます。

ついにはレターセットに直接書くしかなくなり、慎重に何度も何度も確認しながら書くも…

それでも上手く行きません。

ユリもショウもなんとか手紙を完成させてあげたくて、「右だ」「左だ」とそばで声をかけ続けます。

ですが、とうとう小さいレターセットも無くなってしまい大きなレターセットも残す所、10枚となってしまいました。

段々とリーナの顔も暗くなりつつあります。

ショウ:「おい。ユリ。お前リーナのシッポを持て」

ユリ:「えっ?しっぽですか?」

ショウ:「そうだ。書きはじめの位置が声だけじゃ上手くつかめないならお前がルナの目になってやればいい。」

ユリ:「リーナさんの目に…?そうか!そうですね!!」

ユリ:「リーナさん!私がリーナさんの目の代わりになります。」

ユリ:「近くなったらピタッ!って固定しますからしっぽの感覚に集中してください♪」

リーナ:「ユリちゃん…ショウ…ありがとう…」

リーナはペンをしっかりと持ち直し、ショウの指示に従って大体の位置まで移動します。

ユリはズレそうになるリーナのシッポを手や鼻を使って一生懸命に修正します。

まず一本。続いて一本。斜めに一本。横に一本。また横に一本。そのままカーブを描く。

”また失敗しちゃったらどうしよう…もう紙も無くなっちゃう…”

大丈夫だと何度言い聞かせても不安がこみ上げてきます。

リーナは恐る恐る、うしろを振り返り手紙を確認しました。

そこには多少いびつで紙の半分を占領してしまってはいますが、

たしかに ” キ ラ ” の二文字がありました。

ユリ:「や、やりましたよ!リーナさん!!」

リーナ:「うん…うん…」

リーナは顔を手でクシクシしながらコクコクと頷きます。

ショウ:「おい。休んでる場合じゃねぇ。」

ショウ:「いまの感覚を忘れないうちに続きを書いちまえ。」

リーナ:「そ、そうね!」

ユリ:「安心してください。ちゃんと目になりますよ♪」

リーナ:「うん♪ありがとう♪」

早速リーナ達はお手紙の続きに取り掛かります。

一文字、一文字、丁寧に、慎重に書いていき、なんとか「さん」という文字を書くことができました。

ところが、それでなくても書きなれない文字に協力してなんとか書くことの出来る状況。

文字を小さく入れていくことなんて出来るはずもなく「ぽ」を入れる空間が無くなってしまいました。

リーナ:「キラさん…」

ショウ:「名前呼んでるだけに見えるな…」

ユリ:「ショ、ショウさんっ!!なんでそういう事言うんですかっ!!」

ユリ:「大丈夫ですよ。リーナさん。続きを書けばちゃんと読めますから!」

リーナ:「そうよね。うん。そうよ。頑張るわ。」

リーナは続きを書き始めました。悪戦苦闘の末、なんとか書き上げた3枚のお手紙。

出来上がったお手紙を見てリーナは不安そうな顔をします。

リーナ:「これ、ちゃんと伝わるかしら…」

ユリ:「大丈夫ですよ!横に並べればちゃんと読めますから!」

ショウ:「いや。横には並べない方がいいだろ…」

ユリ:「なんでですか!?」

ショウ:「はぁ~。とりあえず並べてみろ。」

ユリはショウに言われた通り、横並びに手紙を並べていきます。

ショウ:「これ、読んでみろ。」

ユリ:「え? ”キラさんぽにいきたい。” って書いてますけど…何が問題なんですか?」

ショウ:「それは、オレらがなんて書いたかわかってるからだろ?」

ショウ:「普通に横で読んだらこうだ。」

”キラぽい い○さんきた”

ショウ:「。が大きくなってるからどう読んでも”い○さん”だろ?」

ショウ:「それに”キラぽい”って下手したら捨てられたって勘違いすんじゃね?」

ショウ:「ってか、”い○さん” って誰だよって話だし(笑)」

ユリ:「もぉ~。ショウさんなんでそんなこと言うんですか!?」

ショウ:「なんだよ。ほんとのことじゃねぇーか。」

ユリ:「だからっていちいちそーゆー不安になること言わなくたっていいじゃないですか。」

ショウ:「ユリが横並びにするっていうからだろーが。」

ショウ:「じゃぁなにか?万が一、誤解されてもお前はいいって言うんだな?」

ユリ:「そんなこと言ってるんじゃありません!!」

またもやショウとユリは喧嘩をはじめてしまいました。

~天使と悪魔~

そんなユリとショウを見ていたリーナでしたが、ついに張り詰めていたナニカがプチンッと切れてしまったようです。

リーナ:「もういいわ…やめましょう…」

ユリ&ショウ:「「 えっ!? 」」

リーナ:「紙ももう残り少ないしね。お手紙を書いたからって伝わるとは限らないし」

リーナ:「そもそも気持ちを伝えたいならお手紙と言わず、自分で言えるようにならなければ意味がないわよね…」

リーナ:「こんなちっちゃな悩み事に散々振り回しちゃってごめんなさい。」

リーナ:「ショウもユリちゃんももうこれ以上喧嘩しなくて大丈夫よ」

リーナ:「迷惑をかけてしまってほんとごめんなさいね。」

ユリ:「そんな!リーナさん。なんでそんなこと…」

不安な気持ちが湧き出てくるのを必死に頑張ることで抑え込んでいたリーナでしたが、

どうやら無理やり抑えていた気持ちが限界を迎えて溢れ出してしまったようです。

そんなリーナに怒りの声をあげたのは他でもない、ショウでした。

ショウ:「なんだそれ……なにがもういいだ。」

ショウ:「そんな全然大丈夫じゃありません。って顔しながら強がってんじゃねぇー。」

ショウ:「オレらに迷惑?振り回す?自分で言わなきゃ意味がない?…なんだそれ。」

ショウ:「そんなんで諦めんならやめりゃいいじゃん!」

ユリ:「ショウさん!!」

ショウ:「やめたきゃ止めればいい。オレらはお前がやりたいって言うから協力してるだけだからな。」

ショウ:「ただ一つ言っておく。」

ショウ:「お前、自分で思ってる以上にお前に関することに対してはポンコツ中のポンコツだからな!!」

ショウ:「オレもユリも誰一人、お前の悩みをちっちゃいことだなんて思ってねぇ。」

ショウ:「それを勝手にちっちゃい事だって決めつけて、勝手にオレらの気持ちを汲んだつもりになって ”やめたい” って言うんならとっとと止めちまえ!」

ユリ:「ショウさん!!なんてことを!」

ショウ:「うるせぇ。黙ってろ!!」

ユリ:「なっ!?……」

ショウ:「だけどな、勝手にオレらの想いを決めつけてんじゃねぇーよ。」

ショウ:「オレらは最初っからポンコツだってわかっててお前に協力するって ”自分で” 決めたんだ」

ショウ:「まだ、自分の気持ち(手紙)ひとつ届けられてねぇポンコツのお前が…」

ショウ:「自分の気持ちにすら目をそらそうとする…」

ショウ:「そんなポンコツのお前が考えるポンコツ案でオレらのことまで汲み取ろうなんてな…」

ショウ:「ポンコツのお前には100年早ぇーんだよ!」

ショウ:「”伝わる” とか ”伝わらない” とか考えるなんてのは…1000万年早ぇーわ!!」

ショウ:「”迷惑だ。ちっちゃい事だ。”とか、わかってます風なことを言う前に」

ショウ:「お前がしなきゃなんねぇ-のは、そのどうしようもないポンコツ案に目を向けるんじゃなくてお前がポンコツを本気でやめたいかどうかをハッキリさせることだろ。」

ショウ:「そして本気でやめたいんなら余計な事なんて考えねぇーで、なんとしてでもポンコツを抜け出すための一歩を踏み出すっきゃねぇーだろ!!」

ショウ:「それをポンコツのお前が ”ひとり” でどーにか出来るってんならとっととやめちまえっ!!」

リーナ:「ポンコツ…」

ユリ:「リーナさん!ショウさんの言う事は気にしないでいいです!」

ユリ:「大丈夫ですよ。リーナさんならちゃんと完成させられますから!」

ユリ:「ちょっと不安になっちゃっただけですよね。」

ユリ:「ユリにだってそーゆー時はあります。」

ユリ:「だから…もし、不安ならユリの勇気を分けてあげます。」

ユリ:「ユリのだけで足りなかったらショウさんのも差し出させます!!」

ユリ:「それでも足りなかったらサクラやサキさんにも協力してもらいます!」

ユリ:「それでもまだまだ足りなかったら森中の動物に協力してもらいましょ♪」

ユリ:「だから大丈夫です!ここまで頑張ったんです。ちゃんと完成させられますよ!」

ショウ:「おい。なに人の気持ち勝手に差し出そうとしてんだよ。」

ユリ:「ショウさんは黙っててください!」

ショウ:「あ”ぁ!?」

ユリ:「それに紙もペンもインクだってまた調達してくればいいだけです♪」

ユリ:「だからリーナさんは安心してお手紙を完成させればいいです。」

ユリ:「いや!完成させなきゃダメです!ユリはそう決めました!!」

ユリとショウは ”リーナが口を挟む隙など一切あたえない” とでも言うように入れ替わり立ち替わり言葉を紡いで行きます。

リーナはそんなふたりをただただ目を見開いて見つめておりました。

ユリ:「リーナさんが想いをちゃんと伝えられるまでいくらでもユリとショウさんで調達してきますからドーンっとお任せてください♪」

ショウ:「いや。さすがにいくらでもは無理だろ…」

ユリ:「ちょっ!そこは大丈夫だって言って安心させておくところじゃないですか!!」

ショウ:「いや。無理なもんは無理ってハッキリ言っておくべきだろっ!」

ユリ:「なんでショウさんはいつも、いつも一言多いんですか!!」

ショウ:「あぁ!?お前が感情任せでテキトーすぎんだろ。」

ユリ:「ムキィー!!!誰がテキトーですって!?」

ショウ:「だぁー。うるせー。耳がつぶれる…」

ユリ:「誰のせいですか!!」

ショウ:「はぁ~。で…?ルナ。どーすんだよ?」

ショウ:「待っててやるからお前がどうしたいのか言ってみろ。」

ショウとユリは今の自分たちに出来るそれぞれのありったけの想いをぶつけ、リーナの目を見つめます。

リーナ:「そっか…ポンコツか…」

リーナ:「無いなら…わけて貰えばよかったのか…そっか…そうよね。」

リーナ:「だってポンコツなのだものね…」

そうリーナはポツリ、ポツリとつぶやきます。

ユリ:「ちょっと。どーするんですか!」

ユリ:「ショウさんがポンコツ、ポンコツ言うからリーナさんがさっきからずっと ”ポンコツ” って繰り返しちゃってるじゃないですか!? 」

ショウ:「あ”ぁ?ほんとの事なんだからしょーがねぇーだろ。」

ショウ:「ほんとお前ってギャーギャーうるせぇーな。」

ユリ:「なっ!?…また ”おまえ” って言いましたね!?言わないでって言ってるのに!!」

ユリ:「ん?よく考えてみたらショウさん。さっきからリーナさんにも”お前 おまえ”って何度も言ってますよね…?」

ユリ:「どうやら…ショウさんとは一度じっくり話合わなきゃいけないみたいですね…」

リーナが自分の気持ちと向き合ったる間、

小声で話ていたショウとユリでしたが喧嘩するほど仲がいいと言うからですかね?

先程からユリはショウに向けて鋭い爪をキラリッ☆と煌めかせて不穏な空気をまといながらジリジリとショウに詰め寄っているようです。

ショウはというとヒョイッと身軽にユリを交わしたかと思うと木の上にトトンッと駆け上り、

めんどくさそうにあくびをしながら、ヤレヤレ…といった表情でユリを見下ろしています。

~運ぶ想いと伝わる気持ち~

そんなやりとりをしていると木々の隙間から一陣の風がぶわぁっと吹き抜けました。

勢いよく吹き抜けた風は木々や枝葉をサワサワと揺らします。

コツン…

リーナ:「いたっ…」

コツコツコツコツン…

リーナ:「あたたたたた…」

ユリ:「きゃー。リーナさん!大丈夫ですか!?」

ショウ:「おい。ルナ。とりあえず木の下から移動しろ!」

風に煽られ大きな木が揺れた拍子に上からリーナめがけて木の実がいくつも落ちてきたのです。

どんぐりサイズの木の実たちは一目散にリーナの頭めがけてコツコツと降り注いできます。

慌てて木の下から避難したリーナの元にユリとショウが駆けてきました。

ユリ:「リーナさん。大丈夫ですか?」

ショウ:「無事か?たんこぶは?」

ショウは少し乱暴にリーナの頭をワシャワシャと撫で回します。

どうやら目立ったたんこぶなどは出来ていないようで安堵の表情を浮かべます。

リーナ:「…ぷっ」

リーナ:「ふふ…あははは~♪」

リーナ:「そうよ。そうよね♪ポンコツだものね♪」

なにを思ったか、リーナが突然笑い出しました。

そして、「えぇ♪えぇ♪なんたってポンコツなんだもの♪」

「ポンコツ♪ポンコツ~♪」といいながら鼻歌まで歌い始めたのです。

ユリ:「リ、リーナさん…大丈夫でしょうか?」

ショウ:「いや…打ちどころが悪かったのかもしれん…」

ユリとショウはお互いの顔を見合わせてなんとも言えない表情をします。

そんな困惑した様子のユリとショウのほうをクルッと向いたかと思うとリーナが言いました。

リーナ:「ユリちゃん。ショウ。ありがとう♪」

リーナ:「わたし、やっぱりお手紙ちゃんとキラに渡したいの。」

リーナ:「もう一回、わたしに力を貸してもらえないかしら?」

そう言って何かが吹っ切れたようにニッコリと微笑みました。

リーナは自分の芯と言いますか、こうありたいという信念のようなものがありました。

それは、泣いてる子がいたらそばにいてあげたいだとか、困ってる子がいたら手を差し伸べてあげたいだとか、

元気のない子がいたら笑顔にしてあげたいだとか、ほんの些細な願いのような想い。

そういった気持ちを忘れたくないし、持ち続けたいと自分自身に決めていたのです。

そんな彼女のキラキラした想いが伝わるからかリーナを知る仲間たちは年齢問わず、

彼女のことを心から信頼し頼りにしますし、優しい・母親のようだと表現したりもします。

ですが、もちろんリーナにも欠点はあるのです。

自分の気持ち一つ上手く伝えられない、甘え方や頼り方を知らない不器用さだったり、

大切な人がそばにいないと”離れていかないで…キライにならないで…そばにいて…”と心が叫び声をあげる寂しがり屋なところだったり、

はじめての動物と話す時は緊張して笑顔が崩せなくなるちょっと人見知りな一面だったり、

起きてもないことを想像して怖くなったり、不安になり逃げ出したくなったり、

何も考えたくなくて隠れるように丸まって動けなくなる時もある、

ちょっと怖がりで臆病な面だってありました。

ですが、いつの頃からか頼りにされればされた分だけ、優しいと言われたら言われた分だけ、

そういった自分の弱くて面倒な部分を見せてはいけない。

みんなのイメージ通りにしなければ…と思うようになってしまっていたのでした。

そういう弱い部分をみせてしまえば、幻滅されたり、みんなが離れてしまう気がしていたのです。

いつしか自分で決めたこと以外の余分な感情がリーナの気持ちにくっついてしまっていました。

もちろん、仲間たちにリーナの弱い部分をみせたからと言ってリーナの周りにいる子たちはリーナから離れたり、嫌いになったりしないでしょう。

実際にセレ猫やユリのように喜んでくれる子だっていたように、

ショウのように力を貸してくれる子だっていたように、

頼って欲しいと思う子だっているのですから。

ですが…リーナは、いつの間にかくっついてしまった余分なモヤモヤした感情が

元々、不器用な性格にさらに拍車をかけて自分の気持ち(弱い部分)を伝えることが出来なくなってしまっていました。

むしろ、そんな弱い部分がある自分がいけないのだと自分を責めていたほどでした。

そんなリーナをポンコツだと言ってくれる。ポンコツだと認めていいと言ってくれる。

ポンコツだと知っても離れずそばにいてくれる。

そして、そんなポンコツの自分に足りないモノを分けてくれると言ってくれる。

ショウとユリにしてみたら何気なく言った言葉かもしれませんが、その気持ちが、その想いが、

リーナの余分なモヤモヤを取っ払ってくれるには十分過ぎるほどでした。

そして、風や木の実がまるで自分に喝を入れてくれたように感じました。

すぐには変えられなくてもいいのです。変わろうと思えるキッカケをくれた。

良い所も悪い所も自分らしくいていいと気づかせてくれた。

そんな想いが伝わりリーナは、うれしくて、うれしくて、たまりませんでした。

鼻歌程度に留めておりますが、ほんとは踊りだしたくてたまらないほど嬉しいのです。

その証拠に見てごらんなさい。先程からしっぽがぷるぷると震え続けていますもの♪

心なしかお日様も ”良かったね” ”やっと自分を出せたね”と喜びを分かち合うように

キラキラと輝き、雲たちも祝福するように形を変えております。

ですが、ショウとユリにはリーナの心の中など見えませんからね。

なんで ”ポンコツ” と言われてそんなに喜んでいるのかさっぱりわからないと言った顔をしていますが、

意味がわからなくてもどこか吹っ切れたような…リーナらしさが出たような感じがして自然と微笑み言いました。

ユリ:「もちろんです♪」

ショウ:「最初から素直にそう言えよな♪」

リーナは満足そうに微笑み、再度ショウとユリの顔を見ていいました。

リーナ:「ふふ♪ふたりともほんとにありがとう…♡」

その時、ふわぁっと爽やかな風が吹きました。風に乗って花びらがヒラヒラと舞い踊っております。

花びらをお日様の暖かな光がキラキラと照らしており、その幻想的な光景に自然とみんなの視線はその花びらを追うように移動します。

花びらはリーナたちの前をスゥーッと通りすぎ、ゆらり、ゆらりと舞い踊りながらゆっくりとリーナがお手紙を書くための便箋の上にポトリ…と落ちました。

まるでなにかのメッセージを伝えるかのように穏やかでゆったりとしたそのひとときに、

ショウもユリもリーナもしばらくその便箋の上の花びらを見つめておりました。

すると、突然リーナが「あぁっ!?」と大きな声をあげました。

ショウ&ユリ「「……!?!?!?」」

ショウ:「なんだよ。突然大きな声出しやがって。」

ユリ:「リーナさん。どうしたんですか?」

リーナ:「そうよ!そうなのよ!」

リーナ:「風さん、お花さん、太陽さん、雲さん。森のみんなもみんなみんなありがとう♪」

リーナ:「うんうん♪そうよね♪ちゃんと受け取ったわ♪うん。わかった!」

リーナはふたりの疑問に答えることなく、

なにやらひとりで納得したり、お礼を言いだしたりして喜び出しました。

ユリ:「???」

ショウ:「???」

ユリとショウはお互いの顔を見合わせ ”なにがわかったのか?” 疑問でいっぱいと言った顔です。

すると、そんなふたりの方にクルリッと向きを変え言いました。

リーナ:「ユリちゃん。わたし、さっきの言葉訂正するわ!」

ユリ:「えっ?」

リーナ:「お花は喋れないって言ったけど、そんなことなかった!ちゃんと最初から伝えてくれてたわ♪」

リーナ:「風もお日様も木々たちもずっと、ずっと見守って伝えてくれてたの♪」

ユリ:「えっと…どういうことですか…?」

リーナ:「わかったのよ♪キラにお手紙を…わたしの気持ちをお手紙に載せて伝える方法!!」

リーナ:「文字を書くことばかりに気を取られてしまってたけど、そうじゃないわよね♪」

リーナ:「わたしが渡したいのは文字じゃなくて気持ちなんだものね♪」

リーナ:「お花さんたちが教えてくれたわ。自分らしく伝えればいいんだって♪」

リーナ:「なら、わたしはポンコツならではの伝え方をすればいいのよ!」

リーナ:「そう思えたのは…そう気づけたのはショウとユリちゃんのおかげよ♪」

リーナ:「ふたりがわたしに勇気を分けてくれたから気づけたの。ほんとにありがとう…♡」

そう満面の笑みで楽しそうにいうリーナにふたりは何を言っているのか全くわかりませんでしたが、

リーナの楽しそうな姿に意味はわからずとも自分たちの行動も意味をなしたのだとわかり自然と笑みが溢れました。

リーナは、そうと決まれば…と意気込んだのもつかの間 ”ちょっと待ってて!” と言い残し、

もの凄い勢いで何処かへ走り去ってしまいました。

あまりのリーナの行動の速さに取り残されたふたりはというと…

あっという間に目の前から見え去ったリーナの面影を眺めながらまたもやお互いの顔を見合わせて

ユリはなにやらおかしそうに笑い、ショウは ”しかたねぇーな” と言いたげな表情で笑いながら言います。

ショウ:「まぁ。大丈夫だろ。」

ユリ:「そうですね♪」

そんなゆったりとした空気の中、ふたりはリーナが戻ってくるのを待つのでした。

~込める想いと伝わる気持ち~

しばらくするとリーナが大きな葉に包まれた ”なにか” をくわえて戻ってきました。

どうやら大きな葉っぱの中には大きめの木の実の殻がいくつも入っているようです。

ショウ:「中身入ってるの1つもねぇーじゃん。」

ショウ:「こんなにいっぱい木の実の殻なんて持ってきてどーすんだよ?」

リーナ:「フフ…(ニヤリ)」

リーナ:「ショウ。この木の実の殻1つ1つにそれぞれ色別にインクを分けていれて貰えるかしら?」

ショウ:「あ?これにか?」

リーナ:「えぇ。そうよ♪あと、1つはお水をたっぷり入れて置いてね。」

ショウ:「あいよ。」

リーナ:「ユリちゃんは向こうから細長い草と枝をいくつか持ってきて貰える?」

ユリ:「わかりました~!お任せください♪」

リーナ:「ありがとう♪よろしくね。」

そういうとリーナは自分の手足についた汚れを入念にペロペロとお掃除し始めます。

ユリ:「リーナさん。持ってきましたよ~!」

リーナ:「ありがとう!そしたら、そっちの紙の上に適当にパラパラ落としておいてちょーだい。」

ユリ:「了解です♪」

ショウ:「ルナ。こっちも終わったぞー。」

リーナ:「ありがとっ!それじゃ、早速行くわよ~!」

そういうと、リーナは両方の手足をドボンッ!と木の実の殻に入れたインクにつけたかと思うと…

ととと…とん…とん♪と紙の上を歩き始めます。

ユリ:「リ、リ、リーナさん!!足が…足跡が…!!」

リーナ:「ふふ♪ユリちゃん落ち着いて。いいのよ。これで♪」

リーナ:「これをキラに渡すお手紙にするのだから♪」

ショウ:「いや…いくら散歩をイメージ出来るからって…」

ショウ:「これはさすがに伝わりにくいんじゃねぇーか?」

リーナ:「ん?なに言ってるのよ。ショウ。」

リーナ:「これは ”早く帰ってきて” って書いてあるのよ?」

ユリ&ショウ「「 ……え” !?……」」

ユリは思います…

”ど、どうしよう…リーナさんがせっかく想いを伝えようと頑張ってるのに…全く…これっぽっちもわからないなんて言えない……でも…全然わかんないよ~…”

ショウは思います…

”せめて散歩に行こうだけにしとけよ…(汗) あ~。どーすっかなー。こいつにしたら相当頑張って変わろうとしてるのに、なんて言ったもんか…”

そんなふたりの葛藤など知る由もないリーナは、ルンルン気分♪で次々に足跡をつけていきます。

リーナ:「よーし。でーきたっ♡」

リーナ:「次はこっちね♪」

すると今度は、キレイに水で洗った片手を赤いインクにつけたかと思うと

ユリに細い草や枝を載せてもらった紙めがけて思いっきり叩きつけるようにビタンッ!!と押し付けます。

そのあまりの勢いにショウとユリは無意識に身体をビクッ!っとこわばらせ、リーナの手についたインクも周辺に飛び散りました。

リーナ:「よし!かんぺき♪」

ユリは思います…

”て、手紙書いてるんだよね…? 果たし状とかじゃないよね…? 明日キラさんが冷たくなってたりとか…し、しないよね!?”

ショウは思います…

”どこらへんが完璧なんだ…?あれか?飛び散り方か?それとも、いまキラを完膚なきまでに叩きのめしたりでもしたのか?…いや。むしろ、宣言か。これからヤるぞっ!っていうアレか…?”

満面の笑みで満足そうにするリーナと対象的にショウとユリはとっても不穏なことに頭を巡らせているのでした。

そして”止めるべきか?” ”何か言ったほうが…” とは思うものの、あまりに楽しそうに準備をしているリーナに何か言えるはずもなく…

ふたりは心の中で ”あとはキラにまかせよう…!!” と固く決意し、応援一択に専念することにしたのでした。

そんなふたりの困惑や葛藤など全く視界に入っていないリーナは続いてピンクのインクを両手につけ、

ポンポンと肉球を押し付けたかと思うとすぐさま手を洗い腕まくりのような仕草をして

今度は水色のインクを両手につけ、もの凄い速さでダダダダダッ!と手紙に肉球を刻んで行きます。

その様子は、さながら格闘家が高速でパンチをいくつも繰り出しているような気迫を感じるほどです。

ユリは思います…

”あっ…これ多分…果たし状だ…うん。手紙じゃなくて果たし状だったんだ…”

ショウは思います…

”関わっちまったからな…責任とってちゃんと花ぐらいは供えにいってやるよ…”

もう、ふたりの中ではリーナの作っている ”ソレ” はお手紙にはこれっぽちも見えていないようです。

いまふたりにわかるのは、リーナがお手紙(仮)に もの凄い勢いでめいいっぱいの気持ちを叩き込んで…詰め込んでいるということだけです。

そうこうしているうちに、どうやらリーナのお手紙は完成したようです。

リーナ:「できたわ♪完成よ♡」

リーナは満足気な笑みを浮かべながらショウとユリに眼差しを向けてきました。

ユリ:「と、とってもいいと思います。うん…気持ちがこもってる感じで。」

ショウ:「あ、あぁ…完成してよかったな。」

”なんて書いてあるかわからない…”

などと、口が裂けても言えないショウとユリは適当に話を合わせてその場をしのごうとしました。

ところが…

リーナ:「ふふ♪そうでしょ♪」

リーナ:「ショウとユリちゃんには、たくさん協力してもらったから特別に読ませてあげるね♪」

そういって全く悪気のない清らかな笑顔でふたりの前に手紙を差し出してきたのです。

リーナとしては気弱になる心にそっと勇気を分けてくれたふたりに対して、

”ふたりのおかげで完成したよ♪”ってことを見せて感謝を伝えたい。

ただそれだけなのですが…

それは痛いほどわかっているのですが…

そんな純粋な気持ちだけで終われないのがこのふたり。

手紙を差し出されて受け取るしかない状況のショウとユリです。

”やっぱり読めないと言うべきなのか?”

そんな葛藤を抱えながらふたりは手紙を受け取り必死に凝視します。

リーナ:「ど、どうかな…?」

ショウ&ユリ「「…………………」」

リーナ:「ショウ?ユリちゃん?」

ショウ&ユリ「「…………………」」

リーナ:「お~い?」

ショウ&ユリ「「…………………」」

リーナ:「????」

ショウ&ユリ「「…………………」」

リーナ:「ひょっとして…読めないの?」

ショウ&ユリ「「………!?!?………」」

ユリ:「ま、ま、まさか!!そんなことあるわけないじゃないですか~(汗)」

ショウ:「あ、あぁ…い、いい感じに書けてると思うぞ…(苦笑)」

リーナ:「ほんとに…?読めないなら読めないでハッキリ言ってくれていいのよ?」

しっぽをしょんぼりと垂らしながらも笑顔で言うリーナにユリとショウは慌てて言います。

ユリ:「い、いや!そんなことないです!このお花の感じがいいと思います!」

ショウ:「お、おう。そうだな。この心配そうに見える感じもいんじゃね?」

ふたりは慌てて答えたため思いつくままの言葉を無意識に口にしましたが、

本人たちでさえ何故そんなことを言ったのかよくわかりませんでした。

ふっと我に返り、とっさに出てしまった言葉に慌てるショウとユリでしたが

リーナはみるみる目をキラキラと輝かせ、シッポをぷるぷると震わせながら

リーナ:「そうなの♪そうなの♪いっぱい、いっぱい込めたのよ♪」

そう言ってうれしそうにしています。

当たっていたことに驚きはもちろんありましたが…

それより何より手紙の内容が部分的にでもわかったことに驚きを隠せず、ショウとユリはまじまじと再び手紙に視線を戻すのでした。

そして、何かを決心したように顔をあげるとリーナに言いました。

ショウ:「ルナ。悪い。正直、なんて書いてあるかオレらじゃわかんねぇー。」

ショウ:「でも、伝わるもんもある。だからいい手紙だと思うよ。」

ユリ:「すみません…リーナさん。わたしもほとんど読めないんです。」

ユリ:「でも、手紙を見たときあったかい気持ちはわかりました。」

ユリ:「だから、きっとキラさんにちゃんと伝わると思います!」

そう言ってふたりは少し申し訳無さそうにリーナに手紙を返します。

リーナ:「そんな顔しないで。大丈夫よ!きっと、これは…」

そのとき、リーナの言葉を遮るようにガサガサッと音がして大きな影がふたつバサッ!!と現れました。

~飛ばす想いと伝わる気持ち~

キラ:「やっと見つけた…!」

どうやらキラは居ても立っても居られず、

チーターのレンを引き連れてリーナを探しに来たようです。

ショウ:「うぉ!?ビックリするじゃねぇーか!!」

ユリ:「キ、キラさんとレンさん!?なんでここに!?」

リーナはビックリし過ぎて目を見開き、しっぽを二倍に膨らませ固まってしまっています。

キラ:「リーナを迎えに来たんだ♪」

レン:「よく言うよ。何してるのか気になって、気になってしょうがなかったくせに…」

キラ:「ちょっとレン!!余計なこというなよな!!」

レン:「へいへい。」

レン:「ところで…この惨状はなんだ?絵でも描いてたのか?」

レンが気になるのも無理はありません。

辺り一面インクが飛び散り、まるでアクション・ペインティングのような状態です。

そして、リーナの身体のあちこちにはその色とりどりのインクが同じように飛び散っています。

ショウが用意してくれたインクは、葉や花・果実から作られたインクだったので辺り一帯からもリーナからもとても甘く芳しい香りが漂っておりました。

キラ:「すっごい甘い匂いがしてくると思ったらリーナ達だったんだね。」

レン:「だな。お菓子でも作ってるのかと思ったが…どうやら違ったみたいだな。」

キラ:「それで?なんでリーナこんなに汚れてるの?」

ユリ:「えっと…これは…その…」

ユリは横目でちらりとリーナの方を見ますが、カチカチに固まってしまったまま動く気配がありません。

本来であれば…お片付けをし、身だしなみを整え、キレイな封筒に入れ、ちょびっと心の準備を整えてからキラに渡そうと…

いや、キラに想いを伝える勇気を出すための一歩を踏みだそうとしていたわけです。

それが何の準備も整っていない状態で目の前に現れてしまったわけですからね。

リーナは頭を真っ白にしつつ、心の片隅で勇気を出さなきゃ!!と葛藤中なわけです。

そんな事とは知らないレンとキラは、インクまみれのリーナを心配そうに見つめ

キラ:「ちょっと…リーナ大丈夫?」

キラ:「こっちおいで。取り敢えずインク落とそう?」

レン:「何があったかは知らないが、取り敢えず身体を洗った方がいいな。」

レン:「池から水汲んで来るから何か器はないか?」

と、テキパキと動き始めようとしています。

見かねたショウが言いました。

ショウ:「こいつ、キラに渡したいものがあるんだと。」

そう言いながら、ぽんっ!っとリーナの背中を押します。

フッと我に返ったリーナはあわあわしながらショウを見つめますが

「いまやったろ」と口パクで伝えられ肩の力がスッと抜ける感じがしました。

ユリもショウの後ろからガッツポーズで応援するジェスチャーをしてくれます。

ふたりが送ってくれた勇気で自然と硬かった表情が和らぎ ”よしっ!” と気合を入れ直します。

キラ:「渡したいもの?」

リーナ:「えっとね。その…キラにお手紙を書いたのよ。」

リーナ:「貰ってくれるかしら…?」

キラ:「手紙!?リーナが書いたの!?」

キラ:「もしかして、手紙を書くためにショウとユリちゃんだけで会いたいって言ったの?」

リーナ:「そうよ。だって、キラが居たらお手紙かけないじゃない。」

キラ:「そっか…」

キラは嬉しさが隠しきれないとでも言うようにしっぽをブンブン振り、緩む口元を必死に引き締めます。

キラ:「ありがと♡喜んでいただくよ♪」

先程までモヤモヤしてたのに…まさか自分のためだったとは思わず、ちょっと照れくさそうに頬を染め

そしてとっても嬉しそうに頭をかきながらリーナがお手紙を渡してくれるのを待ちます。

ところが…どうしたことでしょう?

リーナは何か考え込んだ表情をし、中々渡そうとしません。

リーナ:「………………」

キラ:「????」

ユリとショウも土壇場で不安になってしまったのではと心配そうに見つめます。

リーナ:「…キラ。ちょっと待ってて。」

キラ:「えっ?あ、うん。」

そういうと、リーナはクルッとキラに背中を向けキラに渡すお手紙をなにやら折り始めました。

”封筒に入れるのかな?” と思いながら見守っていたものの

徐々に出来上がっているであろうモノがわかり始めると皆んな一様に困惑した表情を浮かべ始めます。

レン:「え?リーナちゃん。それって…(汗)」

リーナ:「………(黙々と折り続ける)」

ショウ:「おい!ルナ。おまえ、今更渡すの怖気づいたわけじゃねぇーだろーな!(汗)」

リーナ:「………(黙々と折り続ける)」

キラ:「ちょっと!リーナ!!折らなくていいから!!そのままくれればいいから~(泣)」

リーナ:「………(黙々と折り続ける)」

ユリ:「ちょっ!!リーナさん!!な、なんで紙飛行機なんて作ってるんですか!!(汗)」

リーナ:「完成♡これでよしっ♪」

紙飛行機を折り終えて満足気なリーナに

レン:「よくないだろっ!」

ショウ:「よくねぇ!」

ユリ:「よくありません!」

キラ:「……………(冷や汗)」

レン・ショウ・ユリの息の合った見事な三重唱と

若干青ざめこの後なにが起こるのかビクビクして様子を伺ってるキラの顔がリーナに向けられます。

そんなみんなの気持ちとは裏腹にリーナは勢いよく紙飛行機(お手紙)を投げる動作をしながら

リーナ:「それじゃ、キラ♪いっくよ~♪」

キラ:「え!?ちょ、ちょ、ちょっと待って!!」

キラの静止をものともせず、リーナは思いっきり空高く投げました。

レン&ショウ&ユリ「「「えぇ~~~!?!?!!?」」」

キラ:「嘘でしょ!?ちょっ!!なんで投げるんだよ~~!!(泣)」

キラは悲痛な叫びとともに一目散に手紙を追いかけて走って行きます。

リーナ:「じゃ、みんな。ちょっと行ってくるわね♪」

リーナ:「お片付けは戻ってからするからそのままにしておいて!」

そう言うとリーナはキラの後を追いかけて行きます。

ショウ:「………………」

レン:「………………」

ユリ:「………………」

ポカーンとした表情でしばらく唖然としていたショウとレンとユリでしたが、リーナの姿が消えた林を見つめながらポツリとつぶやきます。

ショウ:「えっと…あれか?強制的に散歩に行ったってことか?」

レン:「あ~。うん。だな…」

ユリ:「ユリ達がお手紙読めないって言ったからですかね?」

ショウ:「たぶんな…」

レン:「え?手紙書けなかったのか?」

ユリ:「いや、書けなかったわけじゃないんですけど…」

レン:「????」

ショウ:「肉球スタンプなんだよ」

レン:「あぁ…なるほど…」

そんな世間話をしながらのんびりとふたりを待つことにしたようです。

その頃、キラとリーナはというと…

~~~~~~~~

キラ:「全然落ちてきてくれないじゃん…どこまで飛んで行くんだよ~」

嘆きながら紙飛行機(お手紙)を追いかけるキラの後方に小さな黒い影が見えます。

キラを追いかけてきたリーナです。

身体の大きくなったライオンのキラと黒猫のリーナでは歩幅が全然違いますからね。

一生懸命追いかけていますが中々追いつけません…

それでも、リーナは一緒にお散歩を楽しみたくて、キラの隣に行きたくて、必死に必死に走り続けます。

リーナ:「はぁ…はぁ…はぁ…」

まだまだ距離は縮まりません。

リーナ:「はぁ…はぁ…はぁ…」

まだまだ距離は縮まりません。

もつれそうになる足を必死に必死に動かします。

そんなリーナの頑張りを応援するかのように風がリーナの身体を後ろから押し上げます。

リーナ:「風さんありがとう…♪…はぁ…はぁ…」

追い風もありリーナはグングンと進み続けます。

だいぶ距離も縮まって来ましたが、まだ追いつけそうにありません。

すると、その様子を見ていたカモメがキラに気づいてもらおうと大きな鳴き声をあげました。

キラ:「ん?どうしたの?呼んだ?」

キラはカモメの方を見上げます。

カモメはキラが自分を見たことを確認すると大きく旋回して後ろを向くように合図します。

キラはカモメを目で追いながら顔を斜め後ろの方に向けました。

キラ:「リ、リーナ!?追いかけて来たの!?」

慌ててキラはリーナの元へ引き返します。

リーナ:「はぁ…はぁ…キ、キラ…足…早いのね…」

キラ:「大丈夫!?呼んでくれれば良かったのに…」

リーナ:「はぁ…はぁ…そうしたかった…んだけど…そんな余裕なかったのよ…」

リーナは切れぎれの息を整えながらキラの質問に答えます。

なんとか呼吸を整えてリーナは言いました。

リーナ:「せっかくなら一緒に追いかけた方が楽しいと思って…」

キラ:「そうだけど…ってか、なんでお手紙飛ばしちゃったの?

リーナ:「だって、そっちの方が楽しいし伝わりやすいと思って♪」

キラ:「伝わりやすい?」

リーナ:「そう!わたしらしく伝えてみる事にしたの♪」

キラ:「ん~。まぁ。これはこれで結果オーライって事でいっか♪」

リーナ:「???」

リーナはキラの言った意味がわからずコクン?っと小首をかしげます。

リーナ:「あっ!紙飛行機!!」

キラ:「そうだった!リーナオレの背中に乗って!急いで追いかけなきゃ!!」

リーナ:「うん♪」

リーナはキラの背中にピョンっと飛び乗りました。

キラはリーナがしっかりとタテガミを掴んだことを確認すると急いで紙飛行機を追いかけ始めます。

すると、カモメがまたもや大きな鳴き声で鳴きました。

どうやら、キラがリーナを迎えに行っている間、代わりに紙飛行機を追いかけてくれてたようです。

キラ&リーナ:「「カモメさん。ありがと~♪」」

カモメは ”頑張れっ!” というようにひと鳴きすると元の方角に戻って行きました。

リーナとキラはニコニコしながら楽しそうに草原を駆け回ります。

すると、紙飛行機が段々と下の方に降りてきました。

リーナ:「あっ!落ちてきた!」

キラ:「ほんとだ!よーし。一気に行くよ!しっかり掴まってて!!」

リーナ:「うん♪」

キラは大きな足で力強く地面を蹴り上げ、一気に紙飛行機までの距離を詰めて行きます。

風もキラ達を後ろから押し上げ協力してくれています。

リーナ:「きゃ~♡はや~い♪」

リーナが珍しくはしゃいで楽しそうにしているのでキラも少し得意げです。

しばらくすると飛び上がれば届く距離まで紙飛行機が降りて来ました。

キラ:「リーナ。そろそろいくよ!」

リーナ:「うん♪いつでもいいよ♪」

キラ:「よっ!!」

キラは大きな後ろ足にグッと力を込め、強く地面を蹴り上げると同時に高く飛び上がり、

パシッと大きな口で器用に紙飛行機をキャッチしました。

無事、キラの手元に手紙が届きリーナはご満悦の表情を浮かべ、キラは安堵と共に達成感のある表情を浮かべております。

キラ:「ふぅ…やっと手に入った~。」

リーナ:「よかったわね♪」

キラ:「そうだね♪もう一回やってもいいくらい楽しかったよね♪」

リーナ:「あら?じゃあ、もう一枚あるから今度はショウ達の方に向けて飛ばす?」

キラ:「そうなの!?やる!…あっ。でも中身も気になるしな~。」

キラ:「とりあえず、お手紙見てからがいいかな♪」

リーナ:「えぇ。わかったわ♪さぁ、どうぞ♪」

そういうと、リーナはキラの背中から飛び降りキラの向かい側に移動しました。

キラは座り直すと自分の隣をポンポンと手で叩き、リーナを隣にちょこんと座らせキラキラと期待に満ちた眼差しでお手紙を開いていきます。

”何が書いてあるのか?” というワクワクとドキドキを胸に破いてしまわないように

ゆっくり、ゆっくり、そぉーっと、慎重にお手紙を開いていきます。

キラ:「………ぷっ!そっか…うん。そっかそっか…♪」

キラ:「なんだ。同じ気持ちだったんだね…うんうん♪」

お手紙を見たキラは自然とニヤけてしまう締りのない口元を必死で引き締めながら

”うんうん♪” と何度もうなづきます。

リーナ:「ふふ♪やっぱりキラにはちゃんと伝わったのね♪」

キラ:「オレには…?」

リーナ:「それが、この手紙…」

リーナがクスクス笑いながらキラに説明しようとしたとき

ドッドッドッという足音と共に聞き覚えのある声が響きました。

~見えなかった想いと伝わる気持ち~

レン:「おーい!!一体どこまで走ってたんだよ~」

ユリ:「リーナさ~ん♪♪」

ショウ:「ったく。疲れさせんなよな~」

レン:「おい!ショウはオレの背中に乗ってただけだろーがっ!!」

ショウ:「あ?ちっちゃいこと気にすんなよな」

レン:「おまえなぁ~」

どうやらショウとレン・ユリがふたりを追いかけてきたようです。

リーナ:「あら?もう少ししたら帰るところだったのだけど、迎えに来てくれたの?」

ショウ:「オレはほっとけって言ったんだけどな…」

ショウ:「こいつらが心配だってうるせぇーから仕方なくな」

ユリ:「なっ!ショウさんだって付いて来るって言ってたくせにっ!!」

レン:「そうだぞ!!オレの背中にちゃっかり一番乗りしたくせによく言うよ!!」

先程までのまったりとした穏やかな時間とはうって変わって

素敵な来訪者の登場で花が咲いたように急に賑やかになり、キラとリーナもクスクス笑いながら楽しそうにその様子を眺めています。

ユリ:「それで…その…お手紙は…?」

どうやらユリ達は、リーナの書いた手紙の内容がキラに伝わらなかったらリーナが落ち込んでしまうのではないか?と心配で様子を見に来たようです。

キラ:「いま見てた所だよ♪まさかリーナも同じ気持ちだったとは思わなかった♪」

ショウ&ユリ:「「えっ…!?読めた(のか!?)んですか!?」」

キラ:「え?う、うん。読めたけど…?」

驚きを隠しきれないという表情のユリとショウに対して、質問の意図がわからず不思議そうに首をかしげるキラ。

その状況がわかっているリーナとなんとなく全体を把握して察しがついてるレンだけがおかしそうに笑っておりました。

ショウ:「な、なら!!なんて書いてあったんだよ!!」

ユリ:「そ、そ、そうですよ!!なんて書いてあったんですか!?」

自分の感情に素直なユリのみならず、珍しくショウまでもが動揺を隠しきれずキラに詰め寄ります。

キラ:「え”!?やだよ~。オレへの手紙なんだから誰にも教えない!」

ショウ:「あぁ!?一度見てるんだから今更なんだよ!!」

ショウ:「いいから早く内容を教えろっ!!」

ユリ:「そうですよ!!一回見てますからなんの問題もありません!!」

ショウとユリは無理くりな持論で本当に読めたのか?何としてでも確かめる気満々です。

キラ:「ちょっ!?なんで見てるの!?」

リーナ:「あぁ。手伝ってくれたお礼に先にお披露目したのよ。」

リーナ:「でも、ふたりは部分的にしか読めなかったみたいなの。」

キラ:「えぇ~。せっかくオレだけの手紙だったのに…」

キラ:「しょうがないな~もう…」

『キラと一緒にお散歩に行きたいの。お花がキレイに咲いてる所があるのよ♪だから…早く帰って来てね。』

キラ:「…って感じかな!」

ショウ:「………ルナ。合ってるのか?」

リーナ:「えぇ♪合ってるわよ♪」

ショウ:「マジかよ…」

ユリ:「キラさん、ほんとに読めてたなんて…」

ユリ:「なんで読めたんですか!?」

何故?読めたのか信じられないという面持ちでユリとショウはキラを見つめます。

キラ:「なんでって言われても…わかりやすくない?」

ショウ&ユリ「「全然わかりやすくないっ!!」」

ショウ:「…あっ」

ユリ:「リ、リーナさん!これは違うんです!」

ユリ:「リーナさんの手紙は全然わかりやすくなくなくないですからね!!」

レン:「なくなくないって…(笑)」

ショウ:「まぁ。あれだ。ルナの手紙は味があるからいいって事で…」

リーナ:「なるほどね。味があるけどわかりにくい手紙ってことね…」

ユリ:「ち、違うんですって~」

ユリ:「わかりにくくなくなくなくないんです!!」

レン:「いや…だからユリちゃん(笑) それだと分かりにくいって言ってるって(笑)」

ユリ:「え”!?」

顔面蒼白で慌てふためくユリとちょっとバツが悪そうなショウを見て、あたたかでカラカラとした楽しげな笑い声が周辺に響いておりました。

リーナ:「冗談よ♪ユリちゃん、からかっちゃってごめんなさいね。」

ショウ:「オレにはいじめるなとか言っときながら…」

リーナ:「ふふ♪だって、あんまりにもユリちゃんが可愛んですもの。」

ユリ:「ショウさんはダメですけど、リーナさんなら許します♡」

レン:「ショウ。フラれたな。」

ショウ:「なんだそれ…」

和気あいあいとほがらかなひとときに

その様子を見ていたお日様が満足そうに暖かでおだやかな光で皆を包み込んでおりました。

ショウ:「それで?どこらへんがわかりやすいんだ?」

キラ:「え?あぁ。ん~。例えばこことかすっごくウキウキした感じの足跡じゃん?」

キラ:「こっちはお花っぽいし」

ユリ:「あぁ!それはユリにもわかりました♪」

キラ:「でしょ?それにこっちはちょっと急かされてるけど、待ってる感じあるじゃん?」

ショウ:「言われてみれば…たしかに…」

キラ:「それに、全体的に ”お散歩に行きたい~!” って全力で言ってるじゃん♪」

ショウ:「全体的に…?」

ユリ:「全力で…?」

わかったような…わからないような…複雑な表情を浮かべるショウとユリ。

そんなふたりにリーナは言いました。

リーナ:「きっとね。このお手紙はキラに向けて書いたモノだからわかりにくいんだと思うわ。」

リーナ:「あの…これ。これもわからないかしら…?」

そう言うと、ショウとユリそれぞれにお手紙を差し出します。

リーナ:「えっと…その。ふたりにも書いたの。よかったら貰ってくれる…?」

一体、いつの間に書いていたのでしょうか?

まさか自分たちの分まであると思っていなかったショウとユリはビックリした表情でリーナを見つめます。

リーナ:「あの…えっと…」

ユリ:「(ハッ!?)あ、ありがとうございます~♡」

ショウ:「サンキュ!」

ふたり慌ててリーナから手紙を受け取るとユリはいそいそと、ショウは少し乱暴に開封します。

リーナ:「レンくんごめんね。」

リーナ:「レンくんが居るって知らなかったからレンくんの分がないのだけど…」

レン:「いーよ。いーよ。オレが突然来たんだし。気にしないで♪」

レン:「その代わりと言ってはなんだけど…」

レン:「今度はオレにもリーナちゃんの手紙くれるとうれしいな♪」

リーナ:「えぇ♪もちろんよ♪」

キラ:「えぇ~。リーナがお手紙をくれるのはオレだけでもいいのに~」

レン:「キラ。残念だったな♪」

キラ:「ちぇ~。」

わざとらしく不満をたれるキラとしたり顔でキラをからかうレン、

そしてそれを見て楽しそうに微笑んでいるリーナの傍らでなにやらプルプルさせている影がふたつ。

そうです。ショウとユリです。

ショウ:「マジかよ…ほんとにわかんだけど…」

ユリ:「リーナさ~ん!!ユリも大好きです~~~!!!」

猛烈な勢いで近づいて飛びつくユリをしっかりと抱きとめながら

”どうやら今度はちゃんと伝わったみたいね♪”

と嬉しそうな表情を浮かべるリーナ。

ユリの頭をよしよしとなでながら、フッと何かを思い出したような表情をして言いました。

リーナ:「あっ!そうそう。キラにももう1枚のお手紙渡さなきゃね。」

キラ:「あっ!そうだった!もう一枚♪もう一枚♪」

にんまり顔で ”ちょーだい♡” っと両手を差し出すキラに

リーナは「どうぞ♪」と言ってお手紙を渡します。

早速2枚目のお手紙を見ていたキラでしたが、なにやら難しい顔をしてしばらく考え込んでおります。

レン:「なんだ?お手紙の内容がわかんなかったのか?」

ユリ:「ユリ達も協力しましょうか?」

ショウ:「いや…別の事で考え込んでるんじゃね?」

リーナ:「……………」

そんなやり取りをしていると…

唐突にキラが顔をあげリーナを前足でグッと自分の元に引き寄せるとリーナの額に自分の額をくっつけながら言いました。

キラ:「ごめん…」

キラ:「心配かけてほんとごめん…!!」

突然の謝罪に何事かといった空気が漂う中、リーナだけが少し安堵の表情をみせます。

レン:「おいおい。いきなり謝りだしてどーしたんだよ?」

キラ:「オレ、わかってなかった…レンもほんとごめん!!」

レン:「え?オレ?」

キラ:「オレ…誰かが喜んでくれるなら多少無茶でもオレが出来るかぎり頑張ればいいって…」

キラ:「それで誰かが助かるなら多少無茶するくらいどうってことないって。」

キラ:「そしたらリーナも皆んなも喜んでくれるって思ってたんだ…」

キラ:「だけど、そーゆーオレを見て心配かけちゃってたんだって全然わかってなくて…」

キラ:「レンがこの前言ってたのもオレを心配してくれたからだったってことなんだよね?」

キラ:「オレ…あの時、レンが言った意味全然わかってなかった…ごめん。」

キラ:「リーナもずっと心配させ続けてたんだよね…ほんとごめん。。。」

レンは突然の謝罪にビックリしつつ、自分の気持ちが伝わったことへのちょっとした嬉しさと気恥ずかしさに少し照れくさそうに言います。

レン:「いや。その、なんだ。この前も言ったけど助かってるのは事実なんだ。」

レン:「だからこそ、みんなもお前を頼りにしてるし同時に大切に思ってるんだよ。」

レン:「オレだって一緒に見回りしてくれるヤツがいなくなったら…その…さびし…困るしなっ!!」

レンは話しているうちに少し気恥ずかしくなって声が小さくなったり、最後だけ大きくなったり

誤魔化しつつ話を終わらせたものの…みんなレンの近くに居た為、

小さい声までバッチリ聞こえてしまいクスクスと極力笑い声を堪えながら微笑ましそうな表情で見つめます。

キラは、またもや締まりのない口元をぷるぷる震わせながらリーナをヒョイッと頭の上に乗せると一目散にレンめがけて突進します。

キラ:「レ~ン~!!!」

レン:「うぉ!?待てまてまて~!!来るな!来るなってばっ!!」

レンの静止も聞かずキラはレンに思いっきり飛びつきます。

レン:「わかった!わかったから!!離れろって~」

ユリ:「ちょっと!!キラさん!?リーナさんが落ちそう!落ちそう!!」

リーナ:「キ、キラ!!落ちちゃう!落ちちゃうから~落ち着いて~」

ショウ:「はぁ~~~(深いため息)」

ワーワーギャーギャーと楽しそうにはしゃいでる様子に

まるで ”仲間に入れて♪” というように花びらを乗せた一陣の爽やかな風が吹き抜けました。

その心地よい風にみな澄み渡った空を見上げ、そしてゆっくりとお互いの顔を見合わせながら微笑みあったそうです。

ライオンのキラと黒猫リーナは今日もなかよし。

大好きな仲間と共に学び支え合いながら、かけがえのない時間を過ごします。

~後日談~

黒猫リーナのお手紙大作戦から数日後のある昼下がり。

キラとリーナは心地よいお日様の暖かさに身を委ね、のんびり日向ぼっこ中です。

とっても気持ちよさそうにゴロゴロと喉を鳴らしていたふたりですが、突然なにかを思い出したようにキラが言いました。

キラ:「あっ!そうだ!そういえば、ショウの手紙にはなんて書いたの?」

キラ:「ショウったら自分は人の手紙の内容知りたがったくせに教えてくれないんだもんな~」

リーナ:「う~ん。でも、本人が嫌がるのに勝手に教えたらいけないわ。」

キラ:「え~。ずるくない?」

リーナ:「ショウに許可貰ったらいくらでも教えてあげるわよ♪」

キラ:「ショウが許可するわけないじゃん!あの時だって…」

~~~~~~

みんなで空を見上げて笑いあった後…

キラ:「そういえばユリちゃんの手紙はなんとなく想像つくけど、ショウの手紙にはなんて書いてあったの?」

ショウ:「はっ!?……教えねぇ。」

キラ:「なんでだよ!?オレのは聞いたじゃん!!」

ユリ:「そうですよ。ユリも気になります~」

ショウ:「無理!教えらんねぇ。」

レン:「そんなすごいこと書いてあったのか?(笑)」

ショウ:「……………」

キラ:「え!?そうなの!?余計に気になるんだけど!!」

キラ:「ショウ!教えろってば~」

ショウ:「無理だっていってんだろーが。」

そこからしばらくキラとショウの攻防が続きましたが、結局はショウの粘りがちでした。

ショウは、やっと諦めてくれたキラを横目で見ながら思います。

”「お前呼びはふたりだけの時に呼ぶ、特別な呼び方にするのはどうかしら?」なんてキラが知ったら絶対面倒なことにしかなんねぇ…”

”マジ、こんなこと手紙に書くなよな…いや…むしろ手紙で良かったのか…”

”あー。マジ、肉球の手紙で助かったー。”

なにやら知らぬ間にショウは九死に一生を得ていたようです。

~~~~~~~

キラ:「ほんとあんだけ粘っても教えてくれないなんて一体何書いたんだよ。」

リーナ:「ん?普通のことよ?感謝と提案かしらね♪」

キラ:「提案?」

リーナ:「そっ♪そういえば、レンくんには渡してくれた?」

キラ:「あぁ!バッチリ渡しといたよ♪すっごく嬉しそうだった♪」

~~~~~~~

数日後のとある森の中…

キラ:「レン~。お届け物だよ~!」

レン:「ん?オレに?誰から?」

キラ:「リーナからだよ♪はいっ。」

レン:「おぉ!リーナちゃんほんとにオレにも手紙書いてくれたのか♪」

レンはとっても嬉しそうにキレイな封筒に入ったお手紙を開けていきます。

レン:「ふむふむ…マジ!?やったね♪」

キラ:「なになに?なんて書いてあったの?」

レン:「知りたいか?(ニヤリ)」

キラ:「うんうん!」

レン:「リーナちゃんが日頃、お前の面倒を見てるお礼にクッキー作ってくれるってよ♪」

キラ:「え”!?ずるいっ!!」

レン:「それに、キラが危ないことしたら実力行使で止めて良い権利を頂いた♪」

キラ:「なんだよそれ~」

レンは不満そうにしているキラを横目に思います。

”ほんとはちょっと話を盛ってるけど、概ね危ないことしたら止めてって言われたしいいだろ♪”

”クッキー楽しみだな~。キラにも伝えておいてって書いてあったけど面白いからナイショにしとこ”

そんな悪巧みをしながらレンは楽しそうにキラをからかうのでした。

~~~~~~~

キラ:「そうだ!レンにだけクッキーずるいじゃん!」

リーナ:「????」

リーナ:「レンくんにだけじゃないわよ?」

キラ:「え?他にもあげるの!?」

リーナ:「他にもって…キラはいらないの?」

キラ:「え!?オレにもあるの?」

リーナ:「レンくんに伝えておいてってお手紙に書いたはずなんだけど…読めなかったのかしら?」

キラ:「いや。レンのヤツ、わかっててワザと黙ってたな…」

キラ:「明日覚えてろよ~!」

そんな叫び声が響き渡っていた頃、

~~~~~~~~

とある森の枯れ木にて…

ユリ:「セレ猫さ~ん。リボン分けてもらえますか?」

セレ猫:「あら、ユリちゃん。いいわよ♪好きなのを持っていって♪」

ユリ:「やったー♡リーナさんから貰ったお手紙を可愛く飾り付けして一番いい所に飾る予定なんです♪」

セレ猫:「まぁ♪いいじゃない。その気持ちわかるわ♪」

セレ猫:「わたしも嬉しくて一番目立つところに飾ったもの♪」

ユリ:「セレ猫さんはどこに飾ったんですか?」

セレ猫:「よく聞いてくれたわね♪ユリちゃん。上を見てごらんなさい。」

ユリがセレ猫に言われた通り上を見上げると、

大きな蜘蛛の巣がリボンやビーズ・パール・お花・葉っぱなどで色とりどりに彩られ、

まるで五光が指すかのようにきらびやかな輝きを放っており、

その中央部分にちょこんっとリーナのお手紙が飾られておりました。

セレ猫:「どう?とっても可愛く飾れたでしょ?」

ユリ:「そ、そうですね…(汗)」

”よく見ないとリーナさんの手紙があることすらわからないくらい周りの装飾が…”

”どっちが主役かわからない…とは口が裂けても言えない…”

”ユリは、もうちょっとシンプルにいこう…!”

とっても嬉しそうなセレ猫と対象的にユリは心の中で固く決意するのでした。

おしまい♡

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